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横浜地方裁判所 昭和60年(ワ)2312号 判決 1988年6月20日

原告 日本住宅リース株式会社 (旧商号 株式会社昌栄物産) (同 株式会社泰星物産)

右代表者代表取締役 各和章博

<ほか一名>

右原告ら両名訴訟代理人弁護士 岩原武司

右訴訟復代理人弁護士 大山健児

被告 中村吉男

<ほか一名>

右被告ら両名訴訟代理人弁護士 高橋理一郎

同 湯沢誠

主文

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告らに対し、各自、二一〇〇万円及びこれに対する昭和五九年一一月一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  右1項についての仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告日本住宅リース株式会社(以下「原告会社」という。)は、昭和五九年七月一〇日不動産の売買、賃貸、仲介、金銭の貸付等を目的とし、商号を株式会社昌栄物産として設立された株式会社であり、昭和六〇年二月五日その商号を株式会社泰星物産と変更し、同年二月六日その旨の登記を経、次いで、昭和六三年四月一日その商号を日本住宅リース株式会社と変更し、同年四月七日その旨の登記を経た。

原告倉田は、その間の昭和五九年八月二三日原告会社の代表取締役に就任し、同年八月二五日その旨の登記を経た。

2  原告倉田は、昭和五九年七月二七日被告らから、被告ら共有のホテル用建物及びその敷地である別紙物件目録記載(一)ないし(四)の各土地及び(五)の建物(以下、これらを「本件不動産」という。)についての売却方の仲介を委託され、右委託契約に基づき、個人として、また、同年八月二三日原告会社の代表取締役に就任してからは、その代表取締役として、本件不動産の売却方を他に交渉してきた。

3  被告らは、昭和五九年一〇月三〇日原告らに対し、各自、本件不動産の売却方の紹介料として、二一〇〇万円を、本件不動産について売買契約が成立したときに支払う旨の契約(以下「本件報酬契約」という。)を締結した。

4  被告らは、昭和五九年一〇月三一日原告らの紹介により、訴外ソシアルエンタープライズ株式会社(以下「訴外会社」という。)に対し、本件不動産を代金七億円で売り渡す旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。

右のとおり、本件売買契約は、昭和五九年一〇月三一日原告らの紹介により成立したから、原告らは、同日限り、被告らに対し、各自、紹介料二一〇〇万円を支払うことを求める権利を取得した。

5  よって、原告らは、本件報酬契約に基づき、被告らに対し、各自、右紹介料二一〇〇万円及びこれに対する本件売買契約成立の日の翌日である昭和五九年一一月一日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する被告らの答弁

1(一)  請求の原因1の事実は不知。

(二) 同2の事実のうち、被告らが昭和五九年七月二七日ごろ原告倉田に対し、本件不動産についての売却方の仲介を委託したことは認めるが、その余の点は否認する。

(三) 同3の事実のうち、被告らが昭和五九年一〇月三〇日原告倉田及び株式会社昌栄物産(以下「昌栄物産」という。)との間で、本件報酬契約を締結したことは認めるが、その余の点は争う。

(四) 同4の事実のうち、被告らが原告倉田及び昌栄物産の紹介により、訴外会社に対し、本件不動産を代金七億円で売り渡す旨の本件売買契約を締結したことは認めるが、その余の点は争う。

2  被告らは、本件報酬契約において原告倉田及び昌栄物産に対し、紹介料として二一〇〇万円を、本件不動産について売買契約が成立したときに支払う旨を約定したが、右売買契約の成立とは、右売買契約の履行が完結したときを意味する。

ところで、被告らは 昭和五九年一〇月三一日訴外会社との間で、本件売買契約を締結した際、次のような約定をした。

(1) 代金は七億円とする。

(2) 代金の支払方法は契約と同時に全額を支払う。

(3) 本件不動産の所有権は、訴外会社が右代金を完済したときに、被告らから訴外会社に移転する。

しかるに、訴外会社は、本件売買契約締結と同時に、被告らに対し、手付金一〇〇万円を支払ったが、残代金六億九九〇〇万円を支払わない。

したがって、訴外会社が本件売買契約の履行を完結したとはいえないから、いまだ本件報酬契約における紹介料支払の時期である売買契約の成立の期限は到来していない。

三  被告らの抗弁

1  仮に原告らと被告らとの間に本件報酬契約が締結されたとしても、右契約における報酬の名目は紹介料であるが、その実質は宅地建物取引業法(以下「宅建業法」という。)四六条所定の不動産の媒介に関する報酬であるところ、原告らは、同法所定の宅地建物取引業者としての免許を受けていないから、右報酬を請求することはできない。

2  仮に右主張が認められないとしても、被告らは、本件報酬契約当時、本件売買契約の締結と同時に訴外会社から代金七億円の一括支払を受けて右売買契約の履行が完結するものと信じて本件報酬契約を締結したが、後になって本件売買契約の履行はその契約の締結と同時には完結しないことが判明した。したがって、被告らの本件報酬契約における意思表示は、その重要な部分について右のような錯誤があり、無効である。

3  仮に右主張が認められないとしても、本件報酬契約は、訴外会社が本件売買契約に基づき、被告らに対し、代金七億円を支払うことを停止条件としたものである。しかるに、訴外会社は、右代金七億円を支払わないから、右条件はいまだ成就していない。

4  仮に右主張が認められず、原告らが被告らに対し、本件報酬契約により何らかの報酬請求権を取得したとしても、前記二2記載のとおり、訴外会社は、被告らに対し、本件売買契約に基づき、手付金一〇〇万円を支払ったが、残代金六億九九〇〇万円を支払わなかった。そこで、被告らは、その後、訴外会社に対し、本件売買契約を解除する旨の意思表示をしたので、右契約は解除されたから、原告らの右報酬請求権もすでに消滅した。

5  仮に右主張が認められないとしても、訴外会社が右のように被告らに対し、代金七億円のうち手付金一〇〇万円しか支払えないのに、被告らとの間で本件売買契約を締結したのは、原告らにおいて売買契約が支障なく履行されるような買主を探す義務があるのに、これを怠り、訴外会社が資力のないことを知りながら、何ら調査することなく、無理な仲介をしたことによるものであった。したがって、原告らが被告らに対し、本件報酬契約に基づき、報酬を請求することは、信義則上不当であって許されないものである。

四  抗弁に対する原告らの答弁

1  抗弁1の事実は否認する。

原告らは、本件報酬契約当時、業として宅地建物取引を行っていたものではなく、宅建業法の適用を受けないが、そのために委託契約に基づく報酬請求権が認められないものではない。

2  同2の事実のうち、本件売買契約の履行が契約締結と同時に完結されなかったことは認めるが、その余の点は否認する。

3  同3ないし5の事実は否認する。

第三証拠 《省略》

理由

一  《証拠省略》を総合すれば、請求の原因1の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

二  請求の原因2の事実のうち、被告らが昭和五九年七月二七日ごろ原告倉田に対し、本件不動産についての売却方の仲介を委託したことは、当事者間に争いがない。

右事実と《証拠省略》を総合すれば、請求の原因2の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

三  請求の原因3の事実のうち、被告が昭和五九年一〇月三〇日原告倉田及び昌栄物産との間で、本件報酬契約を締結したこと、同4の事実のうち、被告らが原告倉田及び昌栄物産の紹介により訴外会社との間で、本件売買契約を締結したことは、当事者間に争いがない。

また、前記一に認定した事実によれば、昌栄物産は、原告会社の変更前の商号であって、原告会社とは同一の株式会社というべきである。

以上の次第で、本件報酬契約は、昭和五九年一〇月三〇日原告らと被告らとの間に成立し、また、被告らは、原告らの紹介により、訴外会社との間で、本件売買契約を締結したものというべきである。

四  そこで、被告らの1の抗弁について検討する。

被告らは、本件報酬契約における報酬の実質は、宅建業法四六条所定の不動産の媒介に関する報酬であるところ、原告らは同法所定の宅地建物取引業者としての免許を受けていないから、右報酬を請求しえない旨主張する。

前記事実と《証拠省略》を総合すれば、原告倉田は、昭和五九年七月二七日被告らから本件不動産の売却方の仲介を委託され、右委託に基づき、当初は個人として、次いで、同年八月二三日原告会社の代表取締役に就任してからは、その代表取締役の立場で原告会社の職務の執行として、本件不動産の売却方の仲介行為を業としてきたこと、そして、原告倉田が右仲介行為をした昭和五九年七月二七日から同年一〇月三一日までの間、原告倉田自身が宅建業法所定の免許を受けていたものではなく、また、原告会社はもとより、原告会社における原告倉田以外の者が右免許を受けていたわけでもないことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

ところで、宅建業法は、数次の改正により宅地建物取引業者に対する規制を整備し、無免許の業者による宅地建物の仲介等の行為を強く禁止しようとするものである。そして、右規制についてみるのに、同法三条一項は、「宅地建物取引業を営もうとする者は、建設大臣又は都道府県知事の免許を受けなければならない。」旨規定し、同法一二条一項は、「第三条第一項の免許を受けない者は、宅地建物取引業を営んではならない。」と規定し、同法七九条は、「第一二条第一項の規定に違反した者に対しては三年以下の懲役若しくは五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」旨を規定し、更に、同法五条一項は、右免許の申請について一定の欠格事由を規定する等している。

右のとおりで、行政的規制の面において免許制度が重要視されるところ、司法の面においても、無免許の業者のした仲介委託契約における報酬請求権の成否については、一定の制約が要請されるものというべきである。そして、無免許の業者の報酬請求権は、実体法上完全に成立する場合であっても、裁判上、その請求権を実現することは許されないものと解すべきである。したがって、無免許の業者は、裁判外において委託者から任意に報酬の支払を受けることは格別、裁判所に対し、その報酬の給付を請求しえないものと解すべきである。

以上述べたところによれば、原告らは、被告らに対し、本件報酬契約に基づき、報酬として二一〇〇万円を請求しえないものというべきである。したがって、被告らの前記抗弁は理由がある。

五  以上の次第であるから、その余の点について判断するまでもなく、原告らの本訴請求は、失当として棄却すべきである。

よって、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤榮一)

<以下省略>

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